第一話 『人間とは何ぞや』関連の参考講話 短編集
3、師の謙虚な姿
(23ページ『出会い』参照)
高橋先生は、
「朽木さん、組織を造ったらダメだね」
と、仰っていた。でも高橋先生は組織がありますよね。ですから、質問した人がいるんですね、
「先生は何故、組織を造られたのですか?」
「私が話をすると、沢山の人が集まって来てくれる。その人、一人一人を訪ねて行って、話する訳にいかないから、人に集まって貰う処を造ったんですよ」
――しかも、集まる処は全部自分の建物ですよ、6階建てのビルですね。
ところが先生の処は、人は集まっても、先ずお金が集まらないんですね。また何故か、持って来る人も少ない。(笑)人が集まれば、それだけ費用が掛かりますからね。
でも、先生は「持って来い」とも言わない。
あちこちの宗教団体とか、そういう組織を造ったら、お金がどんどん入ってくるんですね。沢山の信者さんがお金を持って来る。
今、宗教をやってご覧なさい――。誰か、霊感のある人を祀ってやってご覧なさい――。50人、100人信者が集まったら、もう完全に御殿が建ちますよ。そのくらい、今の成長産業の一つなんですよ。(笑)
それで、お金が無いので、先生に、
「先生、お金がありませんけども……」
「そう……困ったね。誰か持ってきてくれないかなあ」
と言っても、誰も持って来ませんね。そうしたら次の日、お金を持ってくるんです。
「先生それ、どうしたんですか?」
「いや、会社からお金持って来たよ」
って仰る。先生は社長ですからね。
「これじゃ、会社おかしくなるんじゃないですか?」
「いいんだよ」
「家も困るんじゃないですか?」
「いいよ」
って仰る。それから、高橋先生という方は、何千という特許を持っていらっしゃるんですよ。貰った特許料を、これまた持って来る。
私は先生の本の販売の方をやっていた時に、著者である先生に対して、本の印税を
払わなければいけない訳ですね。
ああいう真面目な本というものは中々売れないんですね。でも売れる時もありますからね、そういう時は有り難いですよ。だけど、前からの分や経費が掛かって、印税をまだ一回も払っていない。それで先生の部屋へお詫びに行く、断りに行くんです。
「トントン」
戸を開けたら、
「あっ、朽木さん、印税でしょう、お金無いんでしょう、要らないよっ」(笑)
「ガチャン」
戸を開けたら、頭下げて直ぐ閉める。(笑)もう全部分かってるんですよねぇ……。
そういう状態であっても、やっぱりみんなに一所懸命に話をしているんですね。
そして、何か訳の分からない人が相談に来る事もあるんですね。それも一回や二回じゃないんですけど、或る時にヤクザみたいな人が相談に来て「高橋先生に会わせろ」と押し問答になった。
そうしたら、丁度そこへ先生がみえた。先生はその人といろいろ話をした後、
「あ、あなたね、今お金無いんだよね、帰りが困るでしょう。歩いていけないよね」
とポケットから財布を出して、五千円渡しているんですねえ。そして、
「朽木さん、ちょっとね、私の本を何冊か持って来て貰えますか」
と言われ、持って行ったら、
「あなたねえ、わたしの本も読みたいんでしょう、これも持って行きなさいよ」
――その青年は、とうとう泣き出してしまったんですね。
来た時は、まあ、こんなになって肩をいからせて来た人が、ウワーッ!と泣き出してしまって、こっちは吃驚しましたね。――そういう事があったんですね。
他では、そんな事はしないんじゃないでしょうか。「本のお金払え」とも何も言わないんですよ。しかも、反対にお金まで付けて……。
やっぱりそういうものが、本当の、人に対しての親切だとか、優しさじゃないでしょうか。
高橋先生は絶対に「おれは」なんて威張った事もないですよ。
1998年9月